私の主張

壁の向こうの組合効果-新しい仲間のために

Assertion
中村圭介
2024.4.10

1.問題関心

 私は、非正規労働者(パートタイム労働者、有期契約労働者、臨時労働者、派遣労働者)の組織化に成功した10の労働組合に対する事例調査結果をもとに、次のような仮説を論じたことがある(中村、2009、2018)。正規労働者からなる労働組合が非正規労働者の組織化に乗り出したのは、非正規労働者に職場を侵食され、集団的発言メカニズム1の機能不全と代表性2の揺らぎという2つの危機のいずれかあるいは両方に直面したからである。
 経営の先行きに対する不安、職場が停滞、混乱しているとの認知、労働者代表としての地位が揺らぎつつあることの自覚のうち、いずれかをきっかけに、先の2つの危機のどれかあるいは両方に直面していることにユニオン・リーダーたちが気づき、いわば「自らのために」非正規の組織化に乗り出した。
 この仮説を日本ハム、矢崎総業、クノールブレムゼジャパン、イオンリテール、小田急百貨店、ケンウッド・ジオビット、サンデーサン、広島電鉄、八王子市役所、市川市保育園に関する事例調査結果から導き出した。
 非正規の組織化は正規労働者たちが「自分たちのため」に進めたとしても、組織化の成果は「まずは非正規労働者の労働条件の向上という形で表れる」(中村、2018、p.142)。育児・介護休暇の整備、時給アップ、賞与の支給、諸手当の支給、交通費全額支給、時間外割増率の向上、再雇用制度や登用制度の導入、健康保険料の会社負担割合のアップ、夏期休暇の増加等である(pp.142-147)。
 この小文では、正規と非正規の間にあった「壁」を壊した労働組合が、新しい仲間のために、どのような贈り物をしているのかを、UAゼンセンの労働条件調査を利用することで、明らかにしていきたい。もっとも、分析は時系列的(つまり組織化以前と組織化以後の比較)ではなく、クロス・セクション(組織化組合と未組織組合の同一時点での比較)で行うため、正確には「壁を壊した組合が何をプレゼントしたのか」とは言えない。
 利用する調査はUAゼンセン労働条件局政策サポートセンターが2022年7月から8月にかけて行った「2022年度労働条件実態統一調査」である。この調査は「UAゼンセンの加盟組合の労働条件の実態を明らかにし、労働条件闘争方針の策定の基礎資料とするとともに、加盟組合が条件改善を行う際の参考資料を提供することを目的としている」3。回答組合数は681組合であるが、私が再集計の対象としたのは、パートタイム労働者のいる525組合である4
 表1は525組合のうち、パートタイム労働者に組合員資格を付与している組合と付与していない組合の比率を示している。

表1 パートの組合員資格の有無

資格有り 無し
総計 59.6 40.4 525
製造産業部門 7.6 92.4 132
流通部門 83.5 16.5 261
総合サービス部門 64.4 35.6 132
300人未満 29.2 70.8 113
300-999人 51.2 48.8 127
1,000人以上 75.2 24.8 282

全体でパートタイム労働者に組合員資格を与えている組合は6割である。部門、規模で大きな違いが見られ、製造産業部門では1割未満、流通部門では8割強、総合サービス部門では2/3となる。規模別には300人未満が3割、300-999人が5割、1,000人以上は3/4となる。
 以下、人事処遇制度、具体的には昇給と考課、諸手当(年末年始手当を含む)、退職金制度、休暇制度、転換制度に対する組合効果を見ていこう。組合員資格の有無別に有意な差がある場合、それを組合効果と見なすこととする。

2.昇給と考課

(1)定期昇給

 表2にあるように、全体では3割の企業でパートに定期昇給を適用している。組合員資格の有無で割合が大きく異なり、5割対1割弱となる。
部門別には大きな違いがあり、製造産業部門では定期昇給を適用している企業は組合員資格の有無にかかわらず、ほとんどあるいはまったくない。流通部門は全体で4.5割、組合員資格が有ると5割、無いと1割であり、総合サービス部門は全体で3割、資格有りで5割弱、無しで1割未満と、いずれも組合員資格の有無による差異は大きい。

表2 定期昇給

資格有り 無し 検定結果
総計 31.4 48.2 6.6 ***
製造産業部門 5.3 0.0 5.7
流通部門 44.4 50.9 11.6 ***
総合サービス部門 31.8 47.1 4.3 ***
300人未満 5.3 18.2 0.0 ***
300-999人 24.4 40.0 8.1 ***
1,000人以上 44.7 55.2 12.9 ***

注)組合員資格の有無別に有意な差があるかどうかをピアソンのカイ2乗検定で検証している。***は1%水準、**は5%、*は10%水準で有意。以下同じ。

企業規模別では規模が大きくなるほど、組合員資格の有無にかかわらず定期昇給がある企業が増える。いずれの規模でも組合員資格がある方が、定期昇給があることが多く、その差は大きい。

(2)人事考課

 表3によれば、全体で人事考課を行う企業は4割存在する。組合員資格の有無で人事考課の適用状況が大きく異なり、資格有りで6割、無しで1割となる。

表3 人事考課

資格有り 無し 検定結果
総計 39.2 58.5 10.8 ***
製造産業部門 8.3 10.0 8.2
流通部門 55.6 62.4 20.9 ***
総合サービス部門 37.9 54.1 8.5 ***
300人未満 8.0 24.2 1.3 ***
300-999人 29.9 46.2 12.9 ***
1,000人以上 55.3 67.0 20.0 ***

 部門別には製造産業部門が1割で、組合員資格の有無にかかわらず少ない。流通部門は5.5割、総合サービス部門は4割弱と多い。組合員資格の有無によって、人事考課を行うかどうかが大きく異なり、流通部門では6割対2割、総合サービス部門では5.5割対1割となる。
 企業規模別には規模が大きくなるほど、組合員資格の有無にかかわらず人事考課を行う企業が増える。ここでも規模にかかわらず組合員資格有りが資格無しを大きく上回る。

3.年末年始手当と諸手当

(1)年末年始手当

 表4によると、年末年始手当をパートタイム労働者に支給する企業は全体で3割弱であり、組合員資格の有無で大きく異なり、資格有りで4割、無しで1割弱となる。

表4 年末年始手当

資格有り 無し 検定結果
総計 27.4 39.9 9.0 ***
製造産業部門 5.3 10.0 4.9
流通部門 37.5 41.3 18.6 ***
総合サービス部門 29.5 40.0 10.6 ***
300人未満 8.0 21.2 2.5 ***
300-999人 21.3 30.8 11.3 ***
1,000人以上 37.9 45.8 14.3 ***

 部門別には製造業で組合員資格の有無にかかわらず少なく1割以下である。流通部門は1/3強、総合サービス部門は3割と多く、両部門ともに組合員資格有りで4割、無しでは流通部門が2割弱、総合サービス部門が1割となり、差は大きい。
 企業規模別には規模が大きくなるほど、組合員資格の有無にかかわらず年末年始手当を支給する企業が増える。ここでも規模にかかわらず組合員資格有りが資格無しを大きく上回る。

(2)時間帯または曜日手当

 特定の曜日あるいは時間帯に手当を支給する企業は、表5でみるように3割であり、組合員資格有りの企業では4.5割が支給し、無しでは1割に満たず、差は大きい。

表5 時間帯または曜日手当

資格有り 無し 検定結果
総計 29.3 45.7 5.2 ***
製造産業部門 3.0 0.0 3.3
流通部門 43.7 50.5 9.3 ***
総合サービス部門 27.3 38.8 6.4 ***
300人未満 2.7 6.1 1.3 ***
300-999人 20.5 35.4 4.9 ***
1,000人以上 44.3 55.7 10.0 ***

 部門別には製造産業部門では支給企業はほとんどなく、流通部門では4割強、総合サービス部門では3割弱である。組合員資格有りと無しの差は、流通部門、総合サービス部門ともに、5割、4割対1割未満と、かなり大きい。
 企業規模別には規模が大きくなるほど支給企業が増え、組合員資格の有無による差はどの規模でも見られ、とりわけ300人以上で大きい。

(3)通勤手当

 表6によると、通勤手当を支給する企業は全体で4.5割であり、組合員資格の有無別には大きな差があり、資格有りで2/3、無しで2割弱となる。

表6 通勤手当

資格有り 無し 検定結果
総計 45.9 65.2 17.5 ***
製造産業部門 13.6 20.0 13.1
流通部門 59.8 66.1 27.9 ***
総合サービス部門 50.8 68.2 19.1 ***
300人未満 9.7 27.3 2.5 ***
300-999人 36.2 53.8 17.7 ***
1,000人以上 64.5 74.5 34.3 ***

 部門別には製造産業部門で支給が1割強、流通部門で6割、総合サービス部門で5割である。組合員資格の有無別には大きな違いがあるが、1%水準で有意な、しかも大きな差があるのは、流通部門、総合サービス部門だけである。
 企業規模別には規模が大きくなるほど支給企業が増え、その差は大きい。またここでも組合員資格の有無別には大きな違いがある。

(4)役職手当

 表7によると、役職手当を支給する企業は1.5割で、他の手当に比べると支給する企業は少ない。とはいえ、組合員資格有りの企業では1/4が役職手当を支給し、資格無しとの差は大きい。

表7 役職手当

資格有り 無し 検定結果
総計 16.2 24.9 3.3 ***
製造産業部門 1.5 0.0 1.6
流通部門 25.3 28.9 7.0 ***
総合サービス部門 12.9 17.6 4.3 ***
300人未満 0.0 0.0 0.0 ***
300-999人 8.7 13.8 3.2 ***
1,000人以上 26.2 32.5 7.1 ***

 部門別には製造産業部門ではほとんどなく、流通部門で1/4、総合サービス部門で1割強である。組合員資格有無別にみると、流通部門で有りが3割弱、無しが1割弱、総合サービス部門で1.5割強、無しが5%となり、差は大きい。
 企業規模別には規模が大きくなるほど支給企業が増え、1,000人以上では1/4、しかも組合員資格有りでは1/3が支給している。300人以上では組合員資格の有無による差は有意である。

4.退職金制度

(1)退職一時金制度

 表8によると、パートタイム労働者に退職一時金制度を提供している企業は全体で1割と少ない。ここには示さないが、正規労働者に対しては8割の企業が退職一時金制度を設けている。組合員資格の有無別には、総計では有意な差が見られるが、部門別、規模別には有意さは消えてしまう。

表8 退職一時金制度

資格有り 無し 検定結果
総計 9.3 12.8 4.2 *
製造産業部門 4.5 10.0 4.1
流通部門 10.3 11.9 2.3
総合サービス部門 12.1 15.3 6.4
300人未満 6.2 9.1 5.0
300-999人 11.8 18.5 4.8
1,000人以上 9.6 11.8 2.9
(2)退職年金制度

 表9によると、パートタイム労働者に退職年金制度を設定している企業はほとんどない。正規労働者では2/3ほどの企業が設けているのとは対照的である。組合員資格の有無にかかわらず、ごくわずかで、部門別、規模別にも同様である。

表9 退職年金制度

資格有り 無し 検定結果
総計 2.3 2.9 1.4
製造産業部門 1.5 0.0 1.6
流通部門 1.9 2.3 0.0
総合サービス部門 3.8 4.7 2.1
300人未満 2.7 6.1 1.3
300-999人 3.1 6.2 0.0
1,000人以上 1.8 1.4 2.9

5.休暇制度

(1)有給休暇制度

 表10によれば、半日または時間単位の有給休暇制度がある企業は全体の1/3強であり、組合員資格有りでは5割、無しで1.5割で、違いは大きい。
 部門別には流通部門で4.5割、総合サービス部門で1/3強と多く、組合員資格有りではいずれの部門も5割、無しでは1/4、1.5割となる。
 企業規模別には規模が大きいほど半日または時間単位の有休制度がある企業が増え、1,000人以上では5割となる。組合員資格の有無による違いは大きい。

表10 半日または時間単位の有給休暇制度

資格有り 無し 検定
総計 36.4 49.2 17.5 ***
製造産業部門 15.9 20.0 15.6
流通部門 46.7 50.9 25.6 ***
総合サービス部門 36.4 48.2 14.9 ***
300人未満 10.6 21.2 6.3 **
300-999人 33.9 47.7 19.4 ***
1,000人以上 47.9 54.2 28.6 ***

表11によれば、年次有給休暇を積み立てる制度のある企業は全体で3割、組合員資格有りでは4割、無しでは2割弱となり、差は大きい。

表11 年休の積立制度

資格有り 無し 検定
総計 31.2 40.3 17.9 ***
製造産業部門 14.4 20.0 13.9
流通部門 39.5 40.8 32.6 ***
総合サービス部門 31.8 41.2 14.9 ***
300人未満 10.6 18.2 7.5 **
300-999人 26.0 33.8 17.7 ***
1,000人以上 41.8 45.8 30.0 ***

部門別には流通部門で4割、総合サービス部門で3割であり、資格有りではいずれも4割で、無しとの差は有意であるが、ただ、流通部門では組合員資格無しでも1/3の企業が積立制度を有する。
 企業規模別には規模が大きくなるにつれ積立制度を持つ企業が増える。いずれの規模でも組合員資格有りの企業の方が積立制度を持つ企業が多い。
 表12によれば、年次有給休暇を計画的に取得させる制度を持つ企業は全体の3割であり、組合員資格有りでは4.5割、無しでは1.5割と違いは大きい。
 部門別には流通部門で4割強、総合サービス部門で3割弱となる。組合員資格有りでは前者で5割、後者で4割となり、資格無しの2割、数%よりかなり多い。
 企業規模別には規模が大きくなるほど計画取得制度のある企業が増え、違いは大きい。規模にかかわらず、組合員資格有りでは計画取得制度をもつ企業が多く、資格無しとの差は大きい。

表12 年休の計画取得

資格有り 無し 検定
総計 31.2 44.7 11.3 ***
製造産業部門 9.8 10.0 9.8
流通部門 43.7 48.2 20.9 ***
総合サービス部門 28.0 40.0 6.4 ***
300人未満 11.5 27.3 5.0 **
300-999人 24.4 33.8 14.5 ***
1,000人以上 42.2 50.9 15.7 ***
(2)連続休暇制度

 表13によれば、連続休暇制度のある企業は全体で1/4、組合員資格有りで4割、無しでは1割となり、差は大きい。
 部門別には流通部門で4割、総合サービス部門で2割となる。いずれの部門でも組合員資格有りの方が制度を持つ企業が4.5割、3割弱と無しより多いが、ただ、流通部門では組合員資格無しでも1/3の企業に連続休暇制度がある。
 企業規模別には規模が大きくなるほど連続休暇制度を持つ企業が多くなり、いずれの規模でも組合員資格有りの方が多く、差は大きい。

表13 連続休暇制度

資格有り 無し 検定
総計 26.7 38.3 9.4 ***
製造産業部門 3.0 10.0 2.5
流通部門 42.1 44.0 32.6 **
総合サービス部門 19.7 27.1 6.4 ***
300人未満 8.8 21.2 3.8 ***
300-999人 18.9 26.2 11.3 ***
1,000人以上 37.2 44.8 14.3 ***
(3)慶弔休暇

 表14によれば、有給の慶弔休暇制度を持つ企業は4.5割、組合員資格有りでは6割と資格無しの2割を大きく上回る。

表14 有給の慶弔休暇

資格有り 無し 検定
総計 46.1 62.9 21.2 ***
製造産業部門 15.9 20.0 15.6
流通部門 60.5 65.6 34.9 ***
総合サービス部門 47.7 61.2 23.4 ***
300人未満 13.3 24.2 8.8 **
300-999人 37.0 50.8 22.6 ***
1,000人以上 63.1 72.6 34.3 ***

 部門別には流通部門が6割、総合サービス部門が5割と多く、かつ組合員資格有りが無しよりも多い。ただ、この2部門では無しでも前者が1/3、後者は1/4の企業が有給の慶弔休暇を持つ。
 企業規模別には規模が大きくなるにつれ、有給の慶弔休暇を与える企業が増え、規模による違いは大きい。また組合員資格有りと無しの差は規模にかかわらず大きい。

6.転換制度(有期から無期へ、パートから正社員へ)

(1)無期転換制度

 労働契約法第18条は、有期契約で働く労働者が5年を超えて同一の使用者に雇用された場合、「無期契約」への転換を申し込むことができ、その申し込みを使用者は拒否できないと定めている。無期転換の発生を申し込める期間をたずねた設問に対しては無回答が299組合と多く、無期転換権は発生しないと回答した組合も1組合ある。おそらくパートタイム労働者を長期に雇用しようとする企業が少なくないためであろう。そこで、期間ではなく、無期転換権発生を認知しているかどうかに絞って集計してみた。その結果を表15に示す。
 表15によると、無期転換権の発生を認知している企業は4割であるが、組合員資格の有無別には大きな違いがあり、資格有りでは6割が認知し、無しが2割弱となる。

表15 無期転換権発生認知

資格有り 無し 検定
総計 42.9 60.4 17.0 ***
製造産業部門 11.4 10.0 11.5
流通部門 57.5 62.8 30.2 ***
総合サービス部門 45.5 60.0 19.1 ***
300人未満 13.3 27.3 7.5 ***
300-999人 31.5 44.6 17.7 ***
1,000人以上 59.2 69.8 27.1 ***

注)「認知している」には「初めから無期雇用」の6ケースも含まれる。

 部門別には製造産業部門では1割と少なく、また組合員資格の有無別の差はない。流通部門で5.5割、総合サービス部門で4.5割と多く、組合員資格の有無別には大きな差があり、流通部門、総合サービス部門ともに6割を数える。
 企業規模別には規模が大きくなるにつれ、無期転換権発生を認知している企業が増え、その差は大きい。いずれの規模でも組合員資格有りが無しを大きく上回る。
 実際に2021年度に無期転換者がいたかどうかを表16で見ると、全体で1.5割で無期転換者が発生している。組合員資格有りで1/4、無しでは数%で、その差は有意である。

表16 無期転換者有り(2021年度)

資格有り 無し 検定
総計 16.4 24.9 3.8 ***
製造産業部門 2.3 0.0 2.5
流通部門 23.4 27.5 2.3 ***
総合サービス部門 16.7 21.2 8.5
300人未満 1.8 3.0 1.3
300-999人 8.7 15.4 1.6 ***
1,000人以上 25.9 31.6 8.6 ***

 部門別には流通部門で1/4、総合サービスで1.5割であり、組合員資格有りでは前者で1/4強、後者で2割となる。ただ、有意な差があるのは流通部門だけとなる。
 企業規模別には規模が大きくなるにつれ、発生者ありが増え、1,000人以上では1/4となる。300人以上では組合員資格の有無別に大きな違いが見られる。

(2)正社員への転換制度

 表17はパートから正社員への転換制度の有無を示している。就業規則等の文書に明記しているか、明記はしていないがそういう仕組みがあるかどうかを合わせた数値である。
 全体では5割の企業で正社員転換制度があり、組合員資格有りでは2/3の企業にあり、無しとの違いは大きい。

表17 正社員への転換制度有り

資格有り 無し 検定
総計 53.3 67.4 32.5 ***
製造産業部門 32.6 32.8 30.0
流通部門 64.8 71.1 32.6 ***
総合サービス部門 51.5 62.4 31.9 ***
300人未満 39.8 39.4 40.0
300-999人 43.3 64.6 21.0 ***
1,000人以上 63.1 72.6 34.3 ***

 部門別には製造産業部門では3割であり、組合員資格の有無別の違いはない。流通部門で2/3、総合サービス部門で5割と多く、組合員資格有りではそれぞれ7割、6割となり、資格無しを大きく上回る。
 企業規模別には規模が大きくなるほど、正社員転換制度を持つ企業が増え、300人以上では組合員資格の有無別に大きな違いがある。
 次に実際に正社員への転換者が発生しているかどうかを表18で見てみよう。これによると、正社員への転換者が発生しているのは全体で1割である。組合員資格有りで2割弱、無しはほんのわずかである。

表18 正社員への転換者有り(2021年度)

資格有り 無し 検定
総計 11.6 17.9 2.4 ***
製造産業部門 3.0 0.0 3.3
流通部門 16.5 19.7 0.0 ***
総合サービス部門 10.6 15.3 2.1 **
300人未満 0.9 3.0 0.0
300-999人 5.5 6.2 4.8
1,000人以上 18.4 23.6 2.9 ***

 部門別には流通部門で1.5割、総合サービス部門で1割で発生し、資格有りでは前者で2割、後者で1.5割で発生しており、無しとの違いは有意である。
 企業規模別には傾向的な特徴はみられないが、大企業では2割、とりわけ資格有りが1/4で正社員転換者が発生しており、無しと有意な差がある。

7.要約と含意

 以上、パートタイム労働者の人事処遇制度において、パートに対し組合員資格を付与している組合と、付与していない組合との間に、どのような違いがあるのかを見てきた。さまざまな面で、組合員資格の有無で大きな違いがあることがわかった。
表19は、組合員資格の有無別に諸制度の適用の有無を一覧したものである。これによると次のことがわかる。  定期昇給、人事考課という処遇制度の基本となる制度は資格有りで5割から6割、無しで1割と大きな違いがある。流通部門、総合サービス部門で資格の有無別の違いは顕著で、また企業規模が大きくなるほど制度がある企業は増え、かつ資格の有無による違いも大きくなる。
諸手当については、年末年始手当、時間帯または曜日手当、通勤手当を適用しているのは、資格有りで4割から6.5割、無しで1割前後で大きな違いがある。役職手当は、そもそも役職に任命することを想定しない企業が多いからであろう、これらの諸手当に比べれば、その制度を持つ企業は少ない。とはいえ、組合員の有無別には有意な差があり、資格有りでは1/4の企業が持っている。ここでも流通部門、総合サービス部門で資格の有無別の違いは顕著で、また企業規模が大きくなるほど制度がある企業は増え、かつ資格の有無による違いも大きくなる。

表19 総括表

資格有り 無し 検定
定期昇給 48.2 6.6 ***
人事考課 58.5 10.8 ***
年末年始手当 39.9 9.0 ***
時間帯または曜日手当 45.7 5.2 ***
通勤手当 65.2 17.5 ***
役職手当 24.9 3.3 ***
退職一時金制度 12.8 4.2 *
退職年金制度 2.9 1.4
半日または時間単位の有給休暇制度 49.2 17.5 ***
年休の積立制度 40.3 17.9 ***
年休の計画取得 44.7 11.3 ***
連続休暇制度 38.3 9.4 ***
有給の慶弔休暇 62.9 21.2 ***
無期転換権発生認知 60.4 17.0 ***
無期転換者発生(2021年度) 24.9 3.8 ***
正社員転換制度 67.4 32.5 ***
正社員転換者発生(2021年度) 17.9 21.2 2.4

 退職金制度をパートタイム労働者に適用する企業はわずかである。
 休暇制度でも、組合員資格の有無による違いは大きい。半日または時間単位の有休、年休の積立と計画取得、連続休暇は組合員資格有りで4割の企業がもち、無しの1割を大きく上回る。有給の慶弔休暇は資格有りで6割と、無しの2割との違いは大きい。ここでも流通部門、総合サービス部門で資格の有無別の違いは顕著で、また企業規模が大きくなるほど制度がある企業は増え、かつ資格の有無による違いも大きくなる。
 最後に転換制度を見よう。無期転換権を認知している企業は資格有りで6割、無しで2割弱、正社員転換制度を事実として持っているのは資格有りで2/3、無しで1/3となり、差は大きい。流通部門、総合サービス部門で資格の有無別の違いは顕著で、企業規模が大きくなるほど制度を保有する企業が増えるが、ただ、統計的に有意な差があるのは300人以上となる。
 2021年度に実際に転換者が発生したかどうかをみると、無期転換では資格有りで1/4、無しでわずか、正社員転換では資格有りで2割弱、無しでわずかとなる。ただ、統計的に有意な差がある部門、規模は限られる。
 総じて、パートタイム労働者の人事処遇制度に関して、労働組合はプラスの効果をもたらしていると言えよう。以上の分析から次のような含意を引き出すことができる。
 第1に、組合効果を未組織のパートタイム労働者に示すことで、彼らの組織化に関するハードルを下げることができる。もっとも、組織化すれば自然と果実が手にはいるわけではなく、企業側との真しな交渉をしなければならない。ただ、こうした果実を獲得できるよう汗をかくので、組合に加入して欲しいと求めることはできる。未組織のパートタイム労働者も、そうした果実(とりわけ、諸手当と休暇、転換制度)が手に入る確率が高いと思えば、組合加入に前向きになろう。
 第2に、組合員資格を付与している労働組合であっても、人事処遇制度の設置状況に違いがあることに留意すべきだろう。つまり、なぜ4割や6割であって、100%ではないのかである。その違いをもたらす背景を探っていくことが必要だと思う5

参考文献

(1) 労働者が労働条件、仕事のやり方、経営方針、経営体質に不満を持った場合、離職(exit)ではなく、集団的発言(collective voice)という手段を採用して、その不満を解消しようとするメカニズムのこと。集団的発言メカニズムを活用することによって、離職という手段を選択しなくなることで、離職率が低下し、結果として生産性は向上する。その詳細についてはフリーマン=メドフ(1987)、中村=佐藤=神谷(1988)を参照されたい。
(2) 労働基準法は、職場の過半数代表者からの意見聴取、過半数代表者との協定を、多くの事項で定めている。代表的なものは就業規則の制定・変更の際に過半数代表者からの意見聴取を定めた90条1項、1週40時間、1日8時間、週休1日という法規制を超えて時間外労働を会社が命ずる際は、過半数代表者との間で協定を締結することを定めている(36条1項、いわゆる36協定である)。これ以外にも意見聴取や協定締結を定めている事項は多い(これについては、たとえば大内(2006)のpp.167-169、p.170を参照されたい)。
(3) 「UAゼンセンコンパス」(第11巻、夏号、2023年7月)p.73。
(4) このアンケート調査結果を利用できたのは、UAゼンセンの政策サポートセンターに設置された「パートタイム組合員の賃上げ交渉の実態に関する事例調査」プロジェクトへの参加を求められたことがきっかけである。この事例調査の前段として、利用できるデータを可能な限り調べておきたいとの私の申し出に、センターが快く応じてくれた結果である。
(5) その原因として、たとえば、パートタイム労働者の人事処遇方針の違い(均等か均衡か)、パートタイム組合員の組合運営への関与のさせ方(involvement)についての組合方針の違いなどが考えられる。これについては宮島(2023、2024)を参照されたい。

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