私の主張

労働時間は短くなっていくのか?(1)-労働経済白書とJAM

Assertion
中村圭介
2024.6.21

1.目的と方法

 この文章の目的は、いくつかの産業について、労働時間の制度と実態の変化を明らかにすることである。厚生労働省『労働経済白書 令和5年』(2023年5月)を読んでいた時、「月間総実労働時間は、感染症の影響による2020年の大幅減から2年連続で増加したが、働き方改革の取組の進展等を背景に、長期的には減少傾向」(p.44)であるという指摘に驚いたことが、この文章を書くきっかけとなった。すぐ後で紹介するが、2019年を画期として、労働時間は確実に減少しているように見える。
 その傾向を、代表的な産業において確かめてみたい。その上で、短縮のトレンドが一時的なものなのか、それとも持続的なものなのか、さらなる短縮が期待できるのか、一層の短縮のためにはどんな工夫が必要なのかを論じていきたい。
 この目的を達成するため、JAM、電機連合、基幹労連、自動車総連、情報労連に労働時間関係の時系列データの提供を依頼した。幸いなことに、すべての産業別組織が私の意図を理解してくださり、協力いただけるようになった

2.画期としての2019年 -労働経済白書から

 図1は2000年から2023年までの年間総実労働時間の推移(一般労働者、事業所規模5人以上)を示したものであるが、次のことが読み取れる。2000年から2018年までは、リーマンショックの2009年を除けば、年間総実労働時間に大きな変化はない。指数で言うと104から105、時間数では2000時間超である。だが、2019年に年間総労働時間は大きく減った。2000年はコロナ禍の影響でさらに労働時間は短くなり、その後増えたが、2023年であっても101.9であり、JILPTの推計によれば1962時間である1

図1 年間総実労働時間の推移(一般労働者、事業所規模5人以上、2020年=100)
年間総実労働時間の推移

資料出所:厚生労働省『毎月勤労統計調査』令和5年

 いったい、何が起こったのか。労働経済白書を読んでいくと次のことがわかる。表2は月間総労働時間数の推移を示したものだが、2019年に月間総労働時間が5時間弱減り、そのほとんどが所定内労働時間の減少によるものである。

表1 月間労働時間数の推移 (5人以上、一般労働者)
総実労働時間 所定内労働時間 所定外労働時間
2013 168.4 154.5 13.9
14 168.6 154.1 14.5
15 168.6 154.1 14.5
16 168.4 154.1 14.4
17 168.6 154.1 14.6
18 167.5 153.0 14.4
19 164.7 150.5 14.3
20 160.4 148.0 12.4
21 162.0 148.9 13.2
22 162.3 148.4 13.8

資料出所:厚生労働省『労働経済白書 令和5年』p.46。原資料は厚生労働省『毎月勤労統計調査』。

年間出勤日数も減っている。表2によれば2019年には236.5日と、それ以前の年と比べると4日から5日減り、2021年でも233.9日となっている。

表2 年間出勤日数の推移 (5人以上、一般労働者)
年間出勤日数
2013 242.7
14 242.0
15 242.0
16 241.8
17 241.7
18 240.3
19 236.5
20 232.6
21 233.9

資料出所:厚生労働省『労働経済白書 令和4年』p.69。原資料は厚生労働省『毎月勤労統計調査』。

 有給休暇取得日数も表3に見るように、2019年に10日台に乗り、その後も10日が続いている。

表3 有給休暇日数の推移 (30人以上、一般労働者)
調査年
調査対象年
2013
(2012)
14
(13)
15
(14)
16
(15)
17
(16)
18
(17)
19
(18)
20
(19)
21
(20)
22
(21)
23
(22)
男女計 8.6 9.0 8.8 8.8 9.0 9.3 9.4 10.1 10.1 10.3 10.9

資料出所:厚生労働省『就労条件総合調査』令和5年

 月間所定労働時間の短縮、年間出勤日数の減少、有給休暇取得日数の増加が、図1で見られるような変化を引き起こした。それだけでなく、表4で見るように、長時間働く人の割合も減っている。週60時間以上働く人の割合は2013年から減ってきているが、ここでも2019年、2020年以降の変化が大きい。

表4 週60時間以上働く労働者

男女計 男性 女性
2013 8.8 13.2 2.9
14 8.6 12.9 2.8
15 8.2 12.5 2.7
16 7.7 11.7 2.5
17 7.7 11.6 2.6
18 6.9 10.5 2.3
19 6.4 9.8 2.3
20 5.1 7.7 1.9
21 5.0 7.7 1.8
22 5.1 7.7 2.0

資料出所:厚生労働省『労働経済白書 令和5年』p.48。原資料は総務省『労働力調査』

 以上の労働時間の変化は、2019年の労働基準法の改正、とりわけ上限規制、有給休暇の取得義務化が大きいと考えられる。
 2019年は、実質的時短の元年だと言ってもよいのではないか。ただ、この傾向が続くという保証があるわけではないし、国際的にみれば日本人は先進諸国の中で働き過ぎであり、さらに短縮を進めていく必要がある。

3.年間休日数と年間出勤日数

 年間の休日数は完全週休2日制を採用している企業では104日と国民の祝日を合わせた数字がベースとなろう。
 日本の国民の祝日は16日ある。祝日が日曜日に重なった場合は、振替休日が設けられるが、土曜日の場合はそうした措置は取られない。したがって、実際の祝日は年により異なる。表5は土曜日と重なった祝日を除いた祝日数を示している。なお、2019年は天皇即位のため祝日が4日間増えたため18日となっている。

表5 国民の祝日-土曜日と重なった祝日を除く
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
12 13 13 15 15 15 12 14 15 16 16 15
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023
13 14 15 15 16 12 13 18 16 15 15 13

 例外的な2019年を除いて平均をとると、国民の祝日(土曜日を除く)は14.3日となる。これに完全週休2日制を前提とする土日の休日104日を加えると、118.3日が年間休日の基礎になる。
 通常、これに夏季および年末年始の特別休暇が休日に加えられる。特別休暇の日数についての統計は見当たらないが、仮に夏季特別休暇を2日、年末年始特別休暇を4日とすると合あわせて6日の特別休暇が118.3日に加えられる。その合計は124.3日となる。これに表3で示した有給休暇取得日数の9日(2019年以前)を加えると、133.3日となる。365日から133.3日を差し引いた231.7日が年間出勤日数となる。2019年以前でも、計算上は231.7日となる。だが、表2で見るように、2019年以前は240日超である。8.3日はどこに消えたのであろうか?
 以下、産業ごとの労働時間の実態の変化を見ていこう。まずは金属機械産業から。

4.金属機械産業-JAM

4-1.年間総実労働時間の推移

 表6は、2013年から2022年までの平均年間総実労働時間数(実績値)の推移である。この表から2019年が一つの画期であることが読み取れる。2013年から2017年までは年間総実労働時間は増加傾向にある。とりわけ1-99人、100-299人では増加傾向は顕著である。ところが、2018年は前年実績をいずれの規模でも下回り、2019年、2020年では、おそらくコロナ禍の影響であろう、大きく減っている。2021年、2022年には年間総実労働時間数はやや増えているケースもあるが、2017年以前をはるかに下回る。2013年と比べると2050時間から1990時間へと大きく減っている。これらの点は規模にかかわらずあてはまる。

表6 平均年間総実労働時間(実績値)の推移
組合員規模別 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
合計 2046.9 2052.2 2050.8 2055.9 2070.5 2062.2 2029.4 1992.7 2005.1 1995.9
1-99人 2047.7 2050.1 2045.5 2063.1 2080.7 2069.7 2037.2 2012.9 2015.8 2000.0
100-299人 2044.0 2055.6 2061.2 2055.0 2074.5 2068.6 2027.8 1979.7 2000.0 1998.9
300人以上 2035.1 2044.9 2047.4 2040.8 2041.7 2033.3 2007.8 1959.7 1984.9 1981.8

1)300人以上の数値は、300-499人、500-999人、1000-2999人、3000人以上の単純平均。以下同じ。
2)なお、集計組合数は毎年異なる。2022年では1-99人314、100-299人199、300人以上156、合計669となる。以下同じ。

図2 平均年間総実労働時間数(実績値)の推移-規模計
平均年間総実労働時間数(実績値)の推移-規模計

 図2は全体の平均総実労働時間数の推移を図示したものであるが、これらの点をはっきりと読み取ることができる。この点をさらに確かめるために、表7で年間総実労働時間数が最も多かった2017年と2022年の年間総実労働時間数の分布を比較してみよう。

表7 平均年間総実労働時間の分布-2017年と2022年

組合員規模別 1900時間以下 2000時間以下 2000時間超 組合数
2017 合計 13.8 23.0 63.2 614
1-99人 14.6 23.3 62.2 288
100-299人 16.3 19.1 64.6 178
300人以上 9.5 27.0 63.5 148
2022 合計 25.1 29.4 45.4 669
1-99人 27.7 28.343.9 314
100-299人 23.1 27.6 49.2 199
300人以上 22.4 34.0 43.6 156

 いずれの規模においても、2000時間超が2/3から1/2弱へと減り、2000時間を下回る(1900時間以下も合わせ)組合が過半数を占めるようになってきている。

4-2.労働時間制度の推移

 以上の年間総実労働時間数の減少をもたらしたものを探っていこう。まずは1日あたりの所定労働時間数、ついで週休2日制、週休日を含めた休日数を見ていこう。前節の前年実績とは異なり、制度をたずねた設問であり、2014年から2023年の変化となる。
 表8は一日当たり平均所定労働時間数の推移を見たものである。これによると、この10年間、一日当たり所定労働時間数の平均は7時間50分であり、ほとんど変わらない。規模別にみても同様である。

表8 平均一日当たり所定労働時間
組合員規模別 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023
合計 7:51 7:51 7:51 7:51 7:51 7:51 7:51 7:52 7:52 7:52
1-99人 7:50 7:50 7:50 7:51 7:51 7:51 7:51 7:51 7:51 7:51
100-299人 7:52 7:52 7:52 7:52 7:52 7:52 7:53 7:53 7:53 7:53
300人以上 7:52 7:52 7:52 7:52 7:52 7:52 7:52 7:52 7:52 7:52

次に週休2日制の状況をみてみよう。表9は完全週休2日制を取っている組合の比率を示したものである。これによると、全体の8割程度は10年前から完全週休2日制をとっていることがわかるが、より詳しく見ると、2018年から完全週休2日制の組合が増え始め、この10年間で5%ポイント増えていることがわかる。組合員規模別にみると、とりわけ1-99人の変化が顕著であり、2014年の68.4%から2023年の74.3%まで増えている。総実労働時間の短縮に、わずかとはいえ、貢献していることは確かであろう。

表9 完全週休2日制の比率
組合員規模 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023
合計 77.9 77.6 77.8 77.7 78.6 79.1 80.1 80.5 82.0 82.5
1-99人 68.4 68.1 67.9 67.6 68.8 69.2 71.2 71.3 73.4 74.3
100-299人 87.2 86.7 86.8 87.5 87.4 88.6 88.9 90.0 90.4 89.8
300人以上 96.6 97.5 97.1 96.6 97.2 97.4 96.7 95.9 96.4 97.3

 最後に、週休日を含めた年間の休日数の推移を表10で見よう。

表10 平均年間休日数の推移
組合員規模 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023
合計 118.1 118.3 118.6 118.5 118.5 119.3 119.2 119.4 119.3 119.8
1-99人 115.9 116.1 116.4 116.2 116.5 117.2 117.1 117.4 117.3 118.0
100-299人 119.9 120.3 120.7 120.8 120.4 121.3 121.1 121.0 121.0 121.3
300人以上 122.3 122.6 122.7 122.6 122.3 123.0 122.7 123.7 122.6 123.0

 全体でみると、2019年が画期であり、平均年間休日数はそれ以前に比べで1日弱増え、2023年には10年前と比べると1.7日多くなっている。この増加傾向がはっきると読み取れるのが1-99人、100-299人であり、前者では10年間で2.1日、後者では1.4日増えている。
 表11で2014年と2023年の年間休日日数の比較をしてみると、いずれの規模においても、この10年間で「120日以上」が約10%ポイント増えていることがわかる。

表11 年間休日日数の分布-2014年と2023年

組合員規模別 100日未満 100以上105日未満 105以上115日未満 115以上120日未満 120日以上 組合数
2014 合計 2.1 3.1 18.7 23.8 52.3 1163
1-99人 3.9 4.9 25.9 27.2 38.1 6480
100-299人 0.0 1.3 13.5 22.0 63.2 318
300人以上 0.0 0.0 3.0 15.7 81.2 197
2023 合計 0.9 2.5 11.7 22.4 62.5 1111
1-99人 1.7 4.3 19.4 26.9 47.7 587
100-299人 0.0 1.0 4.8 23.6 70.7 314
300人以上 0.0 0.0 0.5 8.1 91.4 210
4-3.年間所定労働時間数の推移{(年間労働日数-有給休暇取得日数)×1日あたり所定労働時間数}

 次に年間所定労働時間数の推移を見よう。これは年間所定労働日数(365日あるいは366日から年間休日数を引いたもの)から有給休暇取得日数を差し引き、実際に働いた年間労働日数に1日当たりの所定労働時間数をかけたものである。  表12は有給休暇の取得日数の推移をみたものである(実績値)。

表12 有給休暇取得日数の推移(実績値)
組合員規模別 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
合計 10.1 10.1 10.8 10.5 10.5 10.8 11.6 10.8 11.6 12.8
1-99人 9.8 9.8 10.7 10.1 10.0 10.1 11.0 10.4 10.9 12.3
100-299人 9.9 9.7 10.4 10.4 10.3 10.7 11.5 10.8 11.8 13.0
300人以上 12.1 12.0 12.1 12.4 12.7 13.2 14.0 12.8 13.7 14.7

 これによると画期は2019年にありそうである。2020年は取得日数が前年に比べて1日弱減っているが、2021年、2022年では有給休暇取得日数は2018年以前よりも多い。2013年と比べ、全体で2.7日、1-99人で2.5日、100-299人で3.1日、300人以上で2.6日増えている。
 2013年と2022年の分布を表13で比較してみると、いずれの規模においても、この10年間で分布が大きく変化したことがわかる。2013年では10日未満が半数近くを占めていたが、2022年ではわずかに1.5割となり、14日以上が1.5割から1/3強から4.5割に増えている。

表13 有給休暇取得日数の分布(実績値)-2013年と2022年

組合員規模別 10日未満 10日以上14日未満 14日以上 組合数
2013 合計 46.8 38.4 14.8 714
1-99人 49.4 36.5 14.1 334
100-299人 49.3 36.5 14.2 219
300人以上 37.9 44.7 17.4 161
2022 合計 15.6 47.0 37.5 886
1-99人 22.8 43.1 34.0 429
100-299人 9.7 53.6 36.7 267
300人以上 7.4 46.3 46.3 190

 完全週休2日制の微増、年間休日日数の増加、有給休暇取得日数の増加の結果、年間所定労働時間数は減っていることが予想される。。

表14 年間所定労働時間数の推移(実績値)
組合員規模別 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
合計 1851.1 1851.8 1847.3 1849.6 1849.4 1846.3 1837.8 1846.4 1841.0 1827.8
1-99人 1868.6 1868.1 1861.8 1866.5 1868.4 1866.7 1856.9 1866.5 1863.9 1844.0
100-299人 1845.4 1848.0 1843.7 1843.3 1842.8 1839.9 1831.1 1836.9 1829.2 1822.6
300人以上 1814.2 1814.2 1815.1 1812.0 1809.3 1802.6 1797.9 1806.4 1800.4 1791.6

 表14から、2019年には年間所定労働時間数は10時間程度減っていること、2020年には揺り戻しがあるが(おそらくは有給休暇取得日数が減ったことが大きい)、2021年、2022年と減少傾向が見られる。この傾向はいずれの規模でもあてはまる。この10年間で年間所定労働時間数は全体で23.3時間、1-99人で24.6時間、100-299人で22.8時間、300人以上で22.6時間減っている。
 表15で年間所定労働時間数の分布を比較すると、全体で1850時間未満が48.5%から65.6%へと17.1%ポイント増え、1-99人では16%ポイント、100-299人では23.3%ポイント、300人以上では13.6%ポイントといずれの規模でも増えている。

表15 年間所定労働時間数の分布(実績値)-2013年と2022年

組合員規模別 1800未満 1850未満 1900未満 1950未満 1950以上 組合数
2013 合計 21.3 27.2 31.1 13.0 7.4 687
1-99人 15.3 21.3 32.2 18.8 12.4 314
100-299人 20.5 28.8 34.9 11.6 4.2 215
300人以上 34.2 36.7 24.1 3.2 1.9 158
2022 合計 32.8 32.8 22.0 8.7 3.7 790
1-99人 23.0 29.6 25.9 14.9 6.5 382
100-299人 34.8 37.8 22.3 3.4 1.7 233
300人以上 51.4 33.1 13.1 2.3 0.0 175
4-4.年間所定外労働時間数

 最後に年間所定外労働時間数(実績値)の推移を見よう。表16によると、ここでも2019年は一つの画期であり、それ以前と比べて、年間所定外労働時間数は大きく減少している。2020年はコロナ禍の影響もあると考えられるが、2021年、2022年でも2018年以前と比べると、45時間ほど少なくなっている。この傾向はいずれの規模でも見られ、この10年間で全体で38.5時間、1-99人で50.7時間、100-299人で54.7時間、300人以上で37.2時間減っている。

表16 年間所定外労働時間数の推移(実績値)
組合員規模別 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
合計 207.7 209.7 203.6 207.5 222.7 216.7 191.8 147.6 165.9 169.2
1-99人 205.8 195.1 181.9 196.0 211.8 201.3 180.8 147.8 153.8 155.1
100-299人 234.2 218.1 215.2 212.5 234.5 230.4 194.4 142.0 171.0 179.5
300人以上 226.8 233.9 233.8 229.2 232.8 231.0 209.8 153.5 185.2 189.6

 表17で年間所定外労働時間数の分布を比較すると、全体でみても規模別で見ても240時間以上が4割から2.5割へと大きく減ったことがわかる。

表17 年間所定外労働時間数の分布(実績値)-2013年と2022年

組合員規模別 120未満 240未満 240以上 組合数
2013 合計 28.5 31.5 40.0 558
1-99人 37.3 24.9 37.8 249
100-299人 27.8 35.5 36.7 169
300人以上 5.0 38.6 47.9 140
2022 合計 34.5 40.8 24.7 669
1-99人 43.0 34.4 22.6 314
100-299人 29.6 43.7 26.6 199
300人以上 23.7 50.0 26.3 156
4-5.要約と含意

 以上、JAMの「賃金・労働条件調査」を利用して、金属機械産業におけるこの10年間の労働時間の推移を見てきた。わかった点は次のようである。
 年間総実労働時間数は2019年を画期として、大きく減り始めた。この10年間でおよそ50時間少なくなっている。年間総労時間数が2000時間を超える組合は2/3から1/2弱へと減った。
 この減少は次の変化がもたらした。第1に、完全週休2日制を採用する組合数がわずかではあるが増えた。この10年間で5%ポイント増となっている。
 第2に年間休日日数が増えた。10年間で1.7日増えている。分布を見ても、120日以上がいずれの規模でも10%ポイント近く増えている。
 第3に有給休暇取得日数も増えた。10年間で2.7日増えている。分布を見ても、有給休暇取得日数14日以上が1.5割から、1/3強あるいは4.5割になっている。
 第4に、以上の3つの要因ゆえに、年間所定内労働時間数も減少した。10年間で1,850時間から1,827時間へと大きく減った。分布を見ると、1,850時間未満が5割弱から2/3へと増えた。こうした傾向は規模にかかわらず当てはまる。
 第5に、年間所定外労働時間数も減った。10年間で40時間弱減り、いずれの規模でも同様の減少が見られる。
 以上の数字から見ると、2019年は長時間労働是正に向かう一つの転機なのかもしれない。この間、景気が特に悪くなったというわけでもないし、また、有給休暇の取得日数や年間休日日数の増加、完全週休2日制の普及は、ある程度、不可逆的変化と見られるから、この仮説も大きく外れているわけでもなさそうである。
 だが、本稿は数字を追っただけであって、それをもたらした労使の取り組みを明らかにしているわけではない。この10年間、労使間でどんな交渉・協議が行われ、労働時間制度や労働時間管理のあり方についてどのような変化が見られたのかを解明する必要がある。そうした地道な事例研究によって、いまだに長時間労働の下にある組合員(少なくない)に、そこから脱出するためのヒントを提示することができるであろう。

(1) JILPT「早わかり グラフでみる労働の今 労働時間」(労働時間|早わかり グラフでみる労働の今|労働政策研究・研修機構(JILPT)に2024.6.21にアクセス)。

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