私の主張

労働時間は短くなっていくのか?(3・完)-基幹労連

Assertion
中村圭介
2024.9.27

7.鉄鋼産業-基幹労連

7-1.年間総実労働時間

 最後に取り上げるのは基幹労連の鉄鋼部門である1。労働時間関係データは基幹労連が毎年実施している「労働諸条件調査」(2014年から2023年)によっている。同調査の対象組合数は年度によって若干異なるが、164組合から184組合である。鉄鋼一貫メーカーの組合およびその企業連に加盟する子会社の組合は鉄鋼総合グループに分類され、調査対象組合は、10組合から15組合となる。それ以外の組合は業種別グループ(普通鋼、特殊鋼、フェロアロイ、二次加工、鉄鋼一般、鉄鋼関連)に分類され、調査対象組合は151組合から166組合となる。もっとも、調査対象組合全てが回答しているわけではなく、無回答や一部のみ回答などを除き、集計対象としたのは鉄鋼総合が7組合から11組合、業種別が69組合から77組合である。鉄鋼総合、業種別を合わせ、集計対象としたのは76組合から87組合となる。なお、鉄鋼総合で技能職、事務技術職(事技職)と分けて回答していない組合(2017年までは2組合、2018年以降は1組合)は集計対象から落としている(年間休日数を除く)。
 表33は2013年から2022年までの平均年間総実労働時間数(実績値)の推移である。この表から2019年、2020年が一つの画期であることが読み取れる。技能職では2014年から2018年までは2100時間前後を記録しているが、2019年に30時間ほど減る。2020年はおそらく鉄鋼需要の世界的落ち込みとコロナ禍の影響であろう2002時間と大きく減るが、2021年からは総実労働時間は増えることになるが、2018年以前に比べ50時間以上少ない。事技職でも2013年から2018年までは2020時間超であるが、2019年には1997時間、その後も1900時間台である。2018年以前を60時間ほど下回っている。こうした傾向は鉄鋼総合、業種別のいずれにおいてもみられる。ただ、業種別の技能職は2020年以降にその傾向が顕著に表れる。

表33 平均年間総実労働時間(実績値)
部門 職種 2013 2014 2015 2016
2017 2018 2019 2020 2021 2022
合計 技能職 2079.04 2098.13 2096.49 2118.62
2132.02 2129.50 2098.58 2002.76 2032.67 2031.19
事技職 2015.32 2047.05 2021.89 2036.23
2030.69 2042.43 1997.44 1916.13 1951.03 1964.52
鉄鋼総合 技能職 2011.19 2028.16 1998.05 2046.08
2031.74 2065.13 2026.27 1970.07 1983.76 1983.27
事技職 1978.51 2010.13 2002.23 2036.31
2014.28 2026.89 1990.96 1970.89 2017.60 2003.28
業種別 技能職 2088.02 2105.70 2104.47 2126.46
2143.16 2137.12 2105.42 2005.94 2037.43 2035.24
事技職 2021.14 2051.97 2023.86 2036.22
2032.92 2044.62 1998.19 1909.85 1943.64 1960.65

 図9、図10は合計の技能職、事技職の平均年間総実労働時間数の推移を図示している。

図9 平均年間総実労働時間数(実績値)-合計、技能職
平均年間総実労働時間数(実績値)-合計、技能職
図10 平均年間総実労働時間数(実績値)-合計、事技職
平均年間総実労働時間数(実績値)-合計、事技職

 技能職、事技職ともに2019年、2020年が画期となっていることがはっきりとわかる。

7-2.労働時間制度

 以上の年間総実労働時間の減少をもたらしたものを探っていこう。表34は年間所定労働時間(協定)の推移を示している。大きな変化はみられないが、業種別の2022年、2023年には所定労働時間(協約)が技能職、事技職ともに約10時間減っていることを指摘することができる。なお、鉄鋼総合の2014年は所定労働時間(協約)が技能職で1802.20時間、事技職で1752.00時間というケースが含まれているために、例外的に短くなっている(2015年以降はこのケースは集計対象から外れている)。

表34 平均年間所定労働時間数(協約)
部門 職種 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023
合計 技能職 1924.08 1926.49 1926.57 1926.70 1928.82 1926.69 1922.30 1926.01 1917.40 1913.40
事技職 1923.88 1924.51 1918.85 1924.04 1925.35 1924.02 1914.87 1917.13 1907.42 1909.86
鉄鋼総合 技能職 1898.24 1910.00 1905.04 1906.26 1903.70 1905.85 1906.06 1907.19 1905.71 1906.05
事技職 1892.46 1915.24 1905.47 1910.26 1906.11 1906.09 1901.73 1906.17 1906.16 1904.55
業種別 技能職 1926.95 1928.28 1928.53 1928.79 1931.57 1929.43 1923.78 1927.84 1918.55 1914.01
事技職 1928.00 1925.71 1920.32 1925.68 1927.87 1926.78 1916.30 1918.36 1907.56 1910.37

 次に年間休日数についてみてみよう。旧鉄鋼労連の「第2次労働時間短縮指針」(1989年)には労働時間短縮の目標として、次の数値が、常昼、交替の労働者のそれぞれについて掲げられている。
1)一日当たり所定労働時間は常昼勤務者で7.75時間、交替勤務者で7.25時間
2)年間休日数
 常昼勤務者の場合、121日。その内訳は①土曜日・日曜日で104日、②祝祭日が14日(国民の祝日・休日14日に、メーデー、会社創立記念日を加え、土曜日との重複分を考慮)、③年末年始が3日となる。交替勤務者(4組3交替制、3組3交替制)の場合は109日とする。
 では、実際には年間の休日数はどうなっているのだろうか。ここでは技能職、事技職ではなく、昼勤、交替別にみることとする。表35によると、年間休日数は鉄鋼総合の交替勤務者、業種別の常昼勤務者では、2019年を画期に増えつつあることがわかる。2022年には10年前と比べ、前者は1.5日、後者は4日増えている。業種別の交替勤務者はトレンドとして休日が増えているとみられる。これらに対して鉄鋼総合の常昼勤務者にはそうした傾向はみられない。なお、この表は、外れ値と私が考えたデータを省いて得られたものである2

表35 平均年間休日数(実績値)
部門 職種 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
合計 常昼勤務者 112.1 112.5 112.5 113.0 113.4 114.0 114.0 114.5 115.0 115.7
交替勤務者 102.5 102.6 104.4 103.9 105.0 104.7 104.0 104.6 105.2 106.1
鉄鋼総合 常昼勤務者 119.4 120.1 119.9 120.0 120.1 120.8 120.5 120.5 120.4 120.8
交替勤務者 105.4 105.5 105.5 105.5 105.5 105.8 106.3 106.3 106.9 106.9
業種別 常昼勤務者 111.4 111.8 111.9 112.4 112.8 113.4 113.6 114.0 114.6 115.4
交替勤務者 102.2 102.4 104.3 103.7 105.0 104.6 103.9 104.4 105.1 106.0

 ちなみに、業種別の交替勤務者の年間休日数の推移のトレンドをみると、図11が得られる。

図11 業種別交替勤務者の年間休日日数
業種別交替勤務者の年間休日日数

注)トレンドの係数のt値は5.507である。

7-3.有給休暇取得時間数

 次に、有給休暇取得時間数(実績値)の推移をみよう。

表36 平均年間有給取得時間数(実績値)
部門 職種 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
合計 技能職 90.49 96.88 99.43 100.01 102.11 109.56 117.82 98.22 112.26 122.64
事技職 87.18 89.85 93.96 95.69 99.05 110.35 120.65 90.03 109.81 117.24
鉄鋼総合 技能職 87.77 97.68 103.32 106.98 108.71 112.42 127.97 113.00 119.14 129.83
事技職 88.30 86.25 92.00 98.46 105.23 111.43 132.94 96.29 109.97 125.83
業種別 技能職 90.77 96.79 99.11 99.23 101.36 109.21 116.87 96.78 111.58 122.03
事技職 87.04 90.34 94.16 95.33 98.20 110.19 119.24 89.31 109.79 116.38

 表36によると、技能職、事技職ともに年間有給休暇取得時間数は増加傾向にあるが、2019年に大きく跳ね上がっていることがわかる。ところが、2020年、2021年には時代に逆行して、大きく減っている。この減少は何によるのか?表37は年間特別休暇・欠勤時間数(実績値)の推移をみたものであるが、年間特別休暇・欠勤時間が2020年に急増し、2021年もまた多いことがわかる。特別休暇・欠勤時間とは一時帰休や臨時休暇などの時間であり(その他に、看護休暇、介護休暇、リフレッシュ休暇などが含まれる)、2020年、21年はコロナ禍の影響で、この特別休暇・欠勤時間が一時的に増えたことをこの表は表している。その結果、有給休暇の取得時間数が減ったのである。コロナ禍が落ち着いてきた2022年には有給休暇取得時間数も2019年水準に戻っており、有給休暇取得時間が減っていくとは考えにくい。

表37 平均年間特別休暇・欠勤時間数(実績値)
部門 職種 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
合計 技能職 19.96 14.69 14.66 17.26 17.50 18.66 18.83 76.30 45.40 37.87
事技職 30.38 26.74 26.62 26.09 42.45 26.18 27.87 100.77 59.88 36.80
鉄鋼総合 技能職 18.21 19.07 16.86 15.12 25.77 19.98 23.86 62.95 69.33 27.57
事技職 25.57 31.93 21.22 18.08 29.05 25.42 25.74 92.6 46.15 12.57
業種別 技能職 20.16 14.31 14.5 17.44 16.77 18.56 18.48 77.06 43.97 38.35
事技職 30.91 19.54 27.09 26.92 43.86 26.26 28.05 101.32 60.82 38.13

 なお、取得日数(2022年実績)でみると、技能・事技職を合わせて、鉄鋼総合が17.0日、業種別が15.7日、合わせて15.8日となっている。

7-4.年間所定外労働時間

 最後に年間所定外労働時間数(実績値)の推移を表38でみよう。2020年に技能職、事技職ともに年間所定外労働時間が多く減るが、これはコロナ禍の影響であろう。これを除くと、2019年、20年を境に大きく変わったとか、トレンド的な変化がみられるということはない。

表38 平均年間所定外労働時間数(実績値)
部門 職種 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
合計 技能職 262.50 276.69 276.13 303.34 318.54 329.45 307.85 244.36 269.29 276.46
事技職 204.25 226.81 220.71 230.85 243.09 257.17 231.79 181.29 207.53 205.61
鉄鋼総合 技能職 192.44 229.79 210.72 258.10 256.08 286.96 265.24 211.86 236.80 220.87
事技職 166.33 205.43 206.68 238.06 235.19 250.06 240.56 213.91 247.80 230.85
業種別 技能職 271.78 281.69 281.29 308.10 325.38 334.60 311.77 247.47 272.45 281.09
事技職 210.24 229.61 220.09 229.97 244.14 258.19 230.80 177.61 203.06 203.13
7-5.要約

 以上、基幹労連が行っている労働時間に関する調査結果を利用して、鉄鋼産業におけるこの10年間の労働時間の推移をみてきた。わかった点は次のようである。
 年間総実労働時間は2019年、2020年を画期として減り始めた。2018年以前と比べて技能職で50時間、事技職で60時間下回っている。
 この減少は次の変化がもたらした。第1に、年間休日日数が一部(鉄鋼総合の常昼勤務者)を除けば、増えた。10年間のトレンドとして増えているケースもあれば(業種別の交替勤務者)、2019年を画期に増えつつあるケースもある(鉄鋼総合の交替勤務者、業種別の常昼勤務者)。その結果、年間所定労働時間数も減っている。第2に有給休暇取得時間数が2019年に大きく増えた。もっとも、2020年、21年はコロナ禍の影響で一時帰休などが増え、有給休暇取得時間数は減ったが、2022年には2019年水準に戻りつつある。

8.要約と含意

 以上、金属機械産業、電機産業、自動車産業、鉄鋼産業の10年間の労働時間の推移をみてきた。これをまとめると次のようになる。
 4つの産業のいずれにおいても、2019年前後を境に、年間総実労働時間は減ってきている。金属機械産業は2050時間から1995時間へ、電機産業は2025時間から1995時間へ、自動車産業は2100時間から2030時間へ、鉄鋼産業は2100時間から2030時間(技能職)、2030時間から1960時間(事技職)へと減っている。
 この変化をもたらしたのは、第1に完全週休2日制の普及(金属機械)、第2に年間休日数の増加(金属機械、鉄鋼)、第3に有給休暇取得日数(時間数)の増加(金属機械、電機、自動車、鉄鋼)、第4に所定外労働時間数の減少(金属機械、電機、自動車)である。
 このうち、完全週休2日制の普及はこれ以上難しいだろう。他方、年間休日数の増加、有給休暇取得日数の増加は不可逆的変化だとみられるから、労働時間に関して、これまでのトレンドとは反対の動きが生じるようには思えない。所定外労働時間の今後についてはわからない。
 とはいえ、表39から推測できるように、長時間働く労働者の割合は日本は国際的に見てきわめて高い。これ以上に、労働時間を短縮する必要があるのではないか。

表39 長時間就業者(週49時間以上働く)の全就業者(パートタイム労働者を含む)に占める割合

日本 アメリカ カナダ ドイツ フランス イタリア オランダ ベルギー デンマーク スウェーデン
男女計 15.3 12.5 8.9 5.3 8.8 8.8 5.6 7.7 6.3 5.8
21.8 16.5 12.5 7.7 12.1 11.9 8.7 10.6 9.3 7.8
7.2 8.1 4.9 2.5 5.4 4.6 2.1 4.5 2.9 3.7

資料出所:『データブック 国際労働比較2024』((独)労働政策研究・研修機構、2024年)

 私は、さらなる労働時間短縮を図るための一つの糸口は祝日にあると思う。「労働時間は短くなっていくのか?(1)-労働経済白書とJAM」の表5に示したように、日本の今日の祝日数は16日、土曜日と重なった祝日を除くと2013年から2023年では12日から16日(2019年を除く)となる。JAM、自動車総連、基幹労連鉄鋼部門の年間休日数からみると、この12日から16日を休日としている企業は少数派のようである。
「国民の祝日に関する法律」は第1条で「・・国民こぞって祝い、感謝し、又は記念する日を定め、これを『国民の祝日』と名づける」と謳い、第3条で「『国民の祝日』は、休日とする」と定めている。もちろん、業務の必要性から「振り替える」こともあろうが、法律の定める「休日」を労働者に提供する義務はないのだろうか?

(1) 基幹労連の造船総合重工部門、非鉄部門、独立部門のデータ、また情報労連のデータも提供されているが、その整理、分析は後日を期したい。貴重なデータを提供していただいた産業別組織には大変申し訳なく思っている。
(2) 年間休日日数が業種別で135日以上のケース(年度によって異なるが5ケース)、幅があるケース(1ケース)と、鉄鋼総合で交替で118日の1ケース(2014年と2015年。それ以降はこのケースは調査対象から外れている)。

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